日本精工株式会社
コーポレート・コミュニケーション部
電動車向け小型軽量化深溝玉軸受を開発
~電動車駆動ユニットの小型軽量化・電費向上に貢献~
- 「幅狭組合せ樹脂保持器」を新開発し、他既存技術と組み合わせることで、大幅な小型軽量化を達成(従来品に対して外径約10%短縮、重量約51%低減)
- 上記に加えて、軸受の幅狭化、低フリクション化、高速化も実現
- eAxleやハイブリッド車駆動ユニットなど、様々な駆動ユニットに搭載可能
日本精工株式会社(本社:東京都品川区、代表者:取締役 代表執行役社長・CEO 市井 明俊、以下NSK)は、電動車の駆動ユニットに搭載する、小型軽量化深溝玉軸受を開発しました。
電動車の航続距離延長のため、その駆動ユニットに搭載される深溝玉軸受には、小型軽量化、幅狭化、低フリクション化、高速化がより一層要求されています。今回、新技術として開発した「幅狭組合せ樹脂保持器」を採用した他、NSKの既存技術を組み合わせることで、強度や寿命といった性能は高水準で維持しつつ、小型軽量化、幅狭化、低フリクション化、高速化を実現。本開発品の搭載により、電動車駆動ユニットの小型軽量化に加え、軸受の低フリクション化などによって電費向上に貢献します。今後、電動車向けに市場投入を開始し、2030年までにグローバルで年間40億円の売上を目指します。

本開発品
1.開発の背景
深溝玉軸受は最も代表的な転がり軸受で、産業機械から自動車まで幅広いアプリケーションに搭載されており、低フリクションで高速回転に適しているのが特長です。電動車では、主にeAxleなどの駆動ユニットの軸に搭載され、軸を保持しモータで発生した駆動力をタイヤに滑らかに伝える役割を担っています。

左~中央:電動車の駆動ユニット(eAxle)における深溝玉軸受の搭載例、
右:深溝玉軸受の構造
電動車の普及が進む中、その開発にあたり、航続距離の延長が大きな課題となっており、搭載される駆動ユニットには小型軽量化と高効率化が要求されています。そのため、駆動ユニットに搭載されるモータは、小型軽量化と高出力を両立するため、高回転化が進んでいます*1。結果として、駆動ユニットに搭載される深溝玉軸受には、小型軽量化、幅狭化、低フリクション化、高速化が要求されています。
*1 モータ出力は、回転数とトルク(モータを回転させる力)の積に等しく、これは、回転数とモータ回転部の径²の積に比例します。そのため、出力を下げずにモータ回転部の径を小さくするためには、高回転化が必要です。
軸受の幅狭化とは、軸受の幅寸法を短縮することを指します。幅狭化された軸受は、今後、シェア拡大が見込まれる2軸/同軸構造eAxleの市場において、特に高いニーズが見込まれています。

eAxleは大別すると3種類(平行3軸eAxle、2軸構造eAxle、同軸構造eAxle)が存在しており、現状はこのうち平行3軸eAxleがシェア9割以上と主流になっておりますが、車両の小型化に有利な2軸および同軸構造eAxleのシェアは拡大傾向にあり、2030年には2割を超えると予測されます*2。2軸および同軸構造eAxleは、入力軸と出力軸が同軸に配置される構造であるため、平行3軸構造eAxleよりもユニットの軸長が増大する傾向があります。そのため、ユニット軸長を短縮できる「幅狭化」軸受への高いニーズが見込まれています。
*2 車格が大きいDセグメント以上向けのeAxleにおける、種類別シェア推移予測。2025年3月時点時点NSK調べ。

主要eAxleの構造
2.開発品の特長
従来品に対して強度や寿命といった性能は高水準で維持しつつ、次の4つの特長を実現しました。
・小型軽量化:外径約10%短縮、重量約51%低減(従来品比)
・幅狭化:幅38%短縮(従来品比)
・低フリクション化:トルク25%低減(従来品比)
・高速化:高速回転(dmn*3 214万以上)を達成(従来品:dmn180万)
*3 dmn:軸受の高速回転性能を示す指標。軸受の内外径平均値(dm)と回転数(n)の積から求められる。
3.開発品の技術
1) 概要
今回、新技術として開発した「幅狭組合せ樹脂保持器」(下図①)を採用した他、NSKの既存技術(下図②~⑤)を組み合わせました。
NSK技術①により、幅狭化と高速化を実現しました。NSK技術②③では、「小型軽量化に伴う、衝撃荷重に対する強度低下」、NSK技術④⑤では「小型軽量化に伴う、寿命低下」、という課題をそれぞれ解消し、小型軽量化と低フリクション化を実現しました。

本開発品を実現した5つのNSK技術
2) 個別技術紹介
NSK技術①「幅狭組合せ樹脂保持器の新開発」:
軸受の幅狭化と高速化を実現。従来品の保持器は、一方向から組付ける構造で変形しやすく、変形を抑制するために保持器を幅広に設計する必要がありました。
そこで、剛性を向上させた保持器を新開発し、本開発品に採用しました。軸受の両側から1対の保持器を組付ける構造のため変形しづらく、保持器の幅狭化が可能となり、軸受の高速化も実現しました。

保持器の外観と構造(左:従来品の保持器、右:開発品の保持器)
4.開発品の効果
開発品により、電動車における駆動ユニットの軸長短縮を含めた小型軽量化に加え、軸受の低フリクション化などによって電費*4向上に貢献します。平行3軸eAxle、2軸構造eAxle、同軸構造eAxle、ハイブリッド車の駆動ユニットなど、様々な駆動ユニットに搭載可能です。
(例)同軸構造eAxleにおける適用効果:
・モータ軸に開発品を適用する場合、軸長16㎜短縮、重量2.2kg軽量化、電費0.09%向上
⇒電費向上により、
1)バッテリー容量削減が可能となり、駆動用バッテリー購入コスト960円分を削減*5
2)航続距離*6 370m向上
・モータ軸と出力軸に開発品を適用する場合、軸長32㎜短縮、重量4.4kg軽量化、電費0.14%向上
⇒電費向上により、
1)バッテリー容量削減が可能となり、駆動用バッテリー購入コスト1665円分を削減*5
2)航続距離*6 590m向上
*4 電費:1km走行に必要な電力量。ガソリン車における「燃費」に相当。
*5 バッテリー価格を13,500[円/kWh]と仮定。
*6 航続距離:1回の充電で走行できる距離。

同軸構造eAxleにおける適用効果
■NSKについて
NSKは、1916年に日本で最初の軸受(ベアリング)を生産して以来、100年以上にわたり軸受や自動車部品、精機製品などのさまざまな革新的な製品・技術を生み出し、世界の産業の発展を支えてきました。1960年代初頭から海外に進出し、現在では約30ヶ国に拠点を設け、軸受の分野で世界第3位、またボールねじ、電動パワーステアリングなどにおいても世界をリードしています。
企業理念として、MOTION & CONTROL™を通じて円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざすとともに、グローバルな活動によって、国を越えた人と人の結びつきを強めることを掲げています。2026年に向けてNSKビジョン2026「あたらしい動きをつくる。」を掲げ、世の中の期待に応える価値を協創し、社会への貢献と企業の発展の両立を目指していきます。