歯科治療の安全と効率を向上するNSKベアリングのイノベーション
世の中には、歯医者とは無縁の完璧な歯の人がいますが、それ以外の多くの人は、おそらく一生の中で何度か虫歯の治療を受けることがあるでしょう。歯医者に行くと、歯科医は歯科用エアタービン(ハンドピース)を手に取ってすぐに、口の中に挿入し、駆動エアでタービンを回転させます。そして、「ヴィィヴィヴィィィーン」と虫歯が削られ、新しい詰め物を入れ、治療は終わります。
この多くの人にとってあまり嬉しくない治療に使われる歯科用エアタービン向けの新製品。口腔の健康を維持するために欠かせないツールである歯科用エアタービンですが、NSKはこのほど、エアタービンの性能を従来よりも飛躍的に上げる「QuickStopBearing™」を発売しました。
新開発QuickStopbearing
歯科用エアタービン
患者さんや歯科医にとってどのようなメリットがあるのか、また、成熟した歯科治療に変化をもたらすには何が必要なのか、このプロジェクトに関わったNSKのエンジニアにお話を伺いました。
プロフィール
岡﨑 峰人
産業機械技術総合開発センター
E&E軸受技術センター
副主務
白井 幹子
産業機械技術総合開発センター
E&E軸受技術センター
副主務
エアによってシールが開閉するベアリング
岡崎 歯科用エアタービンは50年以上もの長い歴史があり、エアタービンメーカー各社が改良を重ねながら現在に至っています。今回、NSKは駆動用のエアによって開閉可能なシールを搭載した「QuickStopBearing」を開発し、エアタービンに新たなイノベーションを実現しました。
エアタービンにおけるベアリングの役割を見直すことで、歯科医、患者、エアタービンメーカーにメリットをもたらし、操作性、安全・衛生面などを向上させることができました。
白井 滑らかな回転を提供するという一般的な役割にとどまらないベアリングを開発したいと考え、最終的にブレーキとして機能する開閉シールを備えたQuickStopBearingを思いつきました。給気エアによって回転中は開き、エア供給が停止されると閉じるシールを作ることで、歯科用エアタービンに不可欠な安全機能をベアリングで実現し、別途ブレーキ機構を設ける必要がなくなりました。これにより、エアタービンメーカーは、より少ない部品でより高度な性能と機能を持つエアタービンを実現できます。
エアタービンの駆動構造
ベアリング断面図
1分間に40万回転
岡崎 歯科医が強く押したり、深く削りすぎたりすることなく、歯を削る量を最小限に抑えるため、歯科用エアタービンは40万min-1(1分間に40万回転)と非常に高速に回転します。この高速回転は、歯を削るバー(切削具)を支えるベアリングの安定性と低摩擦回転によって実現されています。従来のエアタービンでは、スイッチを切ると(駆動エアの供給を止めると)、数秒間は惰性で回転し続け、その間、歯科医は歯肉や唇を傷つけないように慎重にツールを口の中に保持しなければなりませんでした。
白井 惰性回転が停止するまでの時間を短縮するために、エアタービンメーカーによってはブレーキ機構を組み込んでいるところもありますが、NSKが新たに開発した「QuickStopBearing」を使うことで、エアタービン側にブレーキ機構を持たせること無く、惰性回転の停止時間を1秒未満にすることができます。ベアリングの設計だけでブレーキをかけることができることに、私たちも最初は驚きました。NSKとしても前例が無く、実際に設計が可能なのか、確証はなかったですが、開発のコンセプトはしっかりしていて、潜在的なニーズがあることは明白だったので、挑戦してみようと、開発をキックオフしました。
機能1:回転停止時間の短縮
知識と信頼
岡崎 今回のプロジェクトでは、エアタービンメーカーとの強い信頼関係が成功要因となりました。歯科用エアタービンは、長い歴史があるため、すでに確立された製品と思われがちですが、前線で日々患者に直面している歯科医やメーカーとのコミュニケーションを通じて、まだまだ解決すべき課題があることを認識しました。確立されたアプリケーションの革新に不可欠なのは、構造や性能を理解することはもちろんですが、お客様やエンドユーザーとの信頼関係を築き、潜在的なニーズをオープンにすることです。
機能2:「サックバック現象の防止」により衛生面も強化!
白井 昔からある歯科用器具ですが、NSKはそこで全く新しいものを生み出せる会社だと自負しています。我々は、常にメーカーを始めとするビジネスパートナーと真摯に向き合い、あらゆる知識を吸収することを大切にしています。ベアリングは昔からある機械要素ですが、未知の可能性に満ちています。枠にはまる必要はないのです。関係者との深い対話は手間も時間もかかりますが、その分、エンドユーザーや社会のためになる製品を生み出すことができるのです。
ニーズと目標を一致させた開発を目指して
白井 歯科用エアタービンは、高速回転、薬品、高温蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)など、過酷な使用環境にさらされる製品です。お客様がNSKに求める品質・信頼性を確保するため、試作品をオートクレーブ滅菌装置で何百回と滅菌するなどの耐久試験、さらには惰性回転停止時間など、実際の使用シーンを模擬し、性能が維持されることを確認するなど、社内で徹底的な検証を行いました。さらに、お客様と協働で1年以上にわたってのフィールド試験を行い、新開発のエアタービンはもちろんですが、既存のエアタービンにも使用できると確認できました。汎用性を確保することにより、今後の普及が期待できます。
岡崎 我々のチームが開発した製品は、治療効率を改善し、歯科医と患者の負担を軽減できます。安全面・衛生面も向上させることができ、エアタービンを複雑な構造にする必要もありません。より安全でより負担が少ないエアタービンの普及に貢献していきます。
導入メリットは幅広い