アイデアをカタチにするためのプロセス NSKがつくる「あたらしい振り子」
NSKの製品でビジョン「あたらしい動きをつくる。」を表現する企業広告「___ with Motion & Control」。2024年は「Swinging with Motion & Control」と題して、ベアリングを使った「振り子」のような動きをつくりました。参画した8人のエンジニアたちがそれぞれの視点で語る、プロジェクトの裏側に迫ります。
小鳥遊 NSKは、2020年から「___ with Motion & Control」シリーズとして、NSKの自社製品を使った動画を世に送り出してきました。大量生産・大量消費のコンテンツで溢れ、その多くがコモディティ化の一途を辿る中で、純粋な技術力を押し出して勝負するこの広告には誇りを持っています。この動画を通じて、本当にモノ作りが好きな人たちにNSKの技術力と「あたらしい動きをつくる」というメッセージを届けたいと考えています。
岩崎 動画の主役となるNSK製品は毎年変わりますが、今年はNSKの一番の主力製品であるベアリング(軸受)を主役にしたいという熱い想いがありました。普段はクルマや機械の中に組み込まれていて見えないNSKベアリングの力強く滑らかな動きを、動画を通じて沢山の方に見てほしいと考えていました。
今年の動画ではベアリングを主役にしたいという思いでまとまったメンバー。
ベアリングは、摩擦を小さくすることで機械の動作にかかせない回転をスムーズにする部品です。家電や乗り物など日常のあらゆる場面で使用されていますが、通常は機械の中に組み込まれているため、一般の方が目にする機会は多くありません。
ベアリング
ベアリングの仕組みやはたらきについてはこちら
ベアリングが使用されている場面についてはこちら
社会を日々支えるNSKベアリングの回転運動を、目を惹く「あたらしい動き」の主役として表現するのは難しいチャレンジです。そこで、まずは協業するデザインファームのメンバーと一緒になって、自由な発想でアイデアを出し合っていきました。
尾川 デザインファームで行ったアイデア出しは特に印象に残っています。場の雰囲気が非常に良く、ワクワクするようなアイデアが多数出て楽しかったです。例えば、影絵やコマ、アクロバティックな動きやベアリング工場をヒントにしたカラクリをつくるアイデアなど、多くの斬新なアイデアが生まれました。
市販のおもちゃを見ながらあたらしい動きを検討
机の上を埋め尽くす大量のアイデアスケッチ
しかし、今年の動画で表現できる「動き」は一つだけ。多くのアイデアの中から、どうやって絞り込んでいったのでしょうか。
酒見 それぞれのアイデアの実現性を確かめるために、簡単な実験や身近な材料で「プロトタイプ」製作を行いました。プロトタイプで実現可能な動きを確かめたり、プロトタイプで見た「動き」から新たなアイデアが生まれたりなど、アイデアをカタチにするサイクルを何度も繰り返すうちにだんだん「ベアリングを使った振り子」というまとまった方向性が見えてきました。
松岸 私は昨年もこのプロジェクトに参加していて、アイデアをまずカタチにし、そのアイデアの伸び代を検証するプロトタイプの重要性を強く実感していました。そこで、普段私たちが勤務している技術開発センターの実験場に製品や市販の材料などを持ち寄ってNSKメンバーが集まってプロトタイプ製作を行いました。
社内でのプロトタイプ製作の様子
松岸 他にも、自宅にある端材や子どものおもちゃでプロトタイプを作ったこともあります。子どもが動画撮影を手伝ってくれましたね。
笹原 松岸さんの「あるものでアウトプットする」という姿勢には勇気づけられました。デザインファームのメンバーが作るプロトタイプはもちろん質も高いですが、プロトタイプは「質より量」。見た目にこだわらなくて良いと思えてハードルが下がり、自分も前向きに取り組めました。
根本が上下に動く振り子のプロトタイプ
笹原 私は普段の業務でも使用する3Dプリンタで「根本が上下に動く振り子」のプロトタイプを作りました。試作品を金属の部品で作ると図面化も含め1ヶ月以上かかりますが、3Dプリンタならアイデアを数時間でカタチにし、すぐテストすることができます。結果としてこの機構は採用しませんでしたが、短期間にたくさんの検証を重ねたことがプロジェクトにとってプラスになったと思いますし、自分の今後の業務にも生きてくると思います。
NSKとデザインファームが一体となって取り組んだプロトタイプで「NSKベアリングを主役にした振り子」のアイデアに絞ることができました。しかし、動画の完成までは様々な苦労がありました。
新郷 動画では振り子の先端のアームがリングを投げ渡す見せ場があります。キャッチが難しく、固いリングだとテスト中の機構にキズがつく恐れもあったため材質に悩んでいました。そこで、ゴム製のリングを提案したところ、プロトタイプを経て採用されました。自分のアイデアがカタチになって飛んでいるのを見ると嬉しいです。
藤岡 私は最終図面のチェックを担当していたのですが、発注直前に必要なネジ穴がないことに気付きました。パーツ一つ一つに直前まで修正が入っていたので、気付くことができてホッとしました。NSKの強みとデザインファームの強み、それぞれを活かして全力でプロジェクトに取り組み、無事撮影に間に合わせることができたと思います。
松岸 「___ with Motion & Control」は、アイデアを半年という短期間でカタチにしています。複雑に絡みあった課題を並行して進めながら同時に解決していくスリリングなプロジェクトで、設計が完全に固まってから作り始めるのでは間に合いません。毎年、考えることとつくることを「振り子」のように行き来して粗削りなアイデアを磨き上げつつ、技術的側面から曲や演出方法までトータルディレクションしています。振り子のように進めてきたプロジェクトで完成したものが「あたらしい振り子」ということには運命的なものを感じます。
ベアリングを主役にしたいという強い想いがたくさんのアイデアを生み、プロトタイプとの行き来を重ねてやっとたどり着いた、NSKのあたらしい振り子。出来上がった今年の動画は、こちらからご覧ください。
酒見 もし6台の振り子でベアリングの精度にばらつきがあれば、動画のように回転を揃えたり、リングを一斉に投げ渡すことは不可能です。この動画だけで機構の仕組みやベアリングのすごさを完璧に理解していただくのは難しいですが、まずは「回転するところにベアリングあり」と知ってもらえれば嬉しいです。
関連リンク
NSKのベアリングが振り子の精緻な動きにどのように貢献しているのかについては、こちらの記事を合わせてご覧ください。