DXへの取り組みリアルデジタルツインとは

WORK & CAREER

NSKには、 Motion&Control を通じて、トライボロジーなどの技術課題を解決し、社会にあたらしい価値を提供する使命があります。その使命のために、取り組んでいるのが「リアルデジタルツイン」です。

NSKが目指す「リアルデジタルツイン」とは?

データを元に仮想空間でリアルを再現するという一般的な「デジタルツイン」とは異なり、リアルな現象を再現し、洞察することで詳細にカラクリを把握する。そして、そのカラクリを推理してデジタル上にモデル化することで、目に見えない本質を理解する。この本質理解を通して、エンジニアの創造性を解き放ち、既成概念を打ち破るようなソリューションを生み出す──。それが、NSKの目指す「リアルデジタルツイン」です。

[ キーマン座談会 ]

Hさん

自動車事業本部
パワートレイン本部
高崎・榛名地区統括
開発センター
生産技術部 先行開発グループ

INTRODUCTION

2021年2月、技術開発本部に新たな組織が誕生した。その名もデジタルツイン推進室。NSKが目指すリアルデジタルツインの考え方やノウハウを、技術部門全体に加速度的に浸透させるために生まれた新組織だ。そこでグループマネジャーを務めるTと、工場で生産技術の側面から新製品の開発を手掛けるK、Hとが連携し、NSKにおいていち早くリアルデジタルツイン活用の取り組みを進めてきた。その内容とは? そして手にした成果とは? ものづくりのありようを大きく変えるポテンシャルを秘めたリアルデジタルツインの先駆け事例について話を聞いた。

SESSION 01

リアルデジタルツインの出発点

そもそもリアルデジタルツインは
どのようなところから始まったのでしょうか?

Kさん
私の所属する生産技術部 先行開発グループは、生産技術的な側面から新製品の開発にアプローチする部門ですが、昨今は特に開発スピードが重視される傾向にあり、開発期間の短縮が喫緊の課題でした。それを、解析の活用によって解決できないかと考えたのが始まりです。高崎・榛名地区では金型を用いたプレス成形を行っていますが、一つの加工のための金型を作り上げるのには、作っては試し、また調整するといったトライ&エラーが必要で、ゆうに1カ月は要します。その開発工程に解析を用いれば、試作・テスト・調整をすべてパソコン上で行えるので、かなり時間が短縮できるはずだと考えました。しかし問題は精度で、当時の私たちの解析技術では、到底それは実現できず、技術開発本部のTさんに相談を持ちかけたんです。
Tさん
ちょうどそのころ、私は「NSKソリューションラボ」という新しい活動を始めたところで、シミュレーションに用いる専用パソコンとソフトウェアをそろえてインフラ面を整えて、社内公開しようとしていました。そこへ、相談者第一号として話を持ちかけてきてくれたのがKさんとHさんでした。私自身、プレス加工についての知見はありませんでしたが、シミュレーションと鍛造業界は守備範囲なので、「メンターとしてお手伝いしますよ」ということで取り組みがスタートしました。
Kさん
当時はまだリアルデジタルツインという言葉はなかったですよね?
Tさん
ありませんでした。高崎・榛名地区の「解析による開発スピード短縮」への取り組みがまさにその先駆けで、そういう意味ではメンターである私も、現場にどう生かしていけるのかを一緒に勉強しながら道を切り拓いていったといえます。Hさんも大変だったと思いますが、よく勉強してスキルアップしましたね。
Hさん
私は当時まだ入社して間もない若手でしたが、個人的に解析に興味があり、また周囲からも「やってみたら?」と勧められたので、藤沢のTさんを訪ねて、実際に解析しているところを見せてもらったり、またTさんに教わりながら自分でもシミュレーションソフトをさわったりしながら、少しずつ知識を蓄えていきました。新しい技術にふれるのがおもしろくて、楽しみながら取り組んでいました。
SESSION 02

チームで取り組み実現した、解析精度の向上

実際、どのように進めていったのでしょうか?

Tさん
まずは、開発ターゲットである製品のプレス加工をシミュレーション上で正しく再現するところから始めました。「なぜ実寸法とシミュレーションが合わないのか?」そのカラクリを解くために、まずは影響しそうな因子を話し合い、特に、用いる材料の剛性や強度といった物性の入力がカギになると予想し、そのあたりの推論を2人に説いて、主にHさんが精度向上に取り組んでくれました。
Hさん
苦労したのは、シミュレーションソフトは何ができて、何が苦手なのかを把握することでした。どう使えば効果的なのかが、なかなかうまくつかめなくて・・・。
 
精度についても、やっているうちに非常に細かい単位まで入力してきっちり寸法合わせをしなくては、という思いが強くなっていったのですが、メンターのTさんに「そこまで細かく合わせる意味ある?」と諭されて。大切なのは開発期間を短くすることなので、それを達成するために何をどこまでやるべきなのかといった考え方を教わって、ようやくシミュレーションの望ましい活用法を理解できました。
Tさん
シミュレーションは万能だと思われがちで、使い方を知らないと「合わせる」ことが目的になり、作業がエンドレスになってしまうんです。そこでHさんには「何がやりたいのか? 何のためにやるのか?」ということをあらためて確認して、真の目的を忘れないようにと話をしました。
Kさん
私は現場で製品の測定業務に携わっていましたが、そこでも多少の寸法のばらつきはどうしても出るもので、それは現場で解決すべきことだというイメージを持っていました。シミュレーションも同じで、シミュレーションで理想的な答えが出たとしても、実際に現物で作るとわずかに誤差が生じます。Tさんにいろいろ教わり、Hさんとも認識合わせをすることによって、シミュレーションに求めるところと、リアルで解決すべきところとの線引きが明確になっていった感じですね。そうやって進めるうちに、Tさんに相談する前に自分たちで試みていた解析とは比べものにならないくらいに精度が上がっていったので、これは十分使えると確信しました。
SESSION 03

目的の達成、さらに「不可能」だった加工の実現

その後の成果としては?

Kさん
いろいろありますが、まずは当初の目的だった「開発期間の短縮」についてです。シミュレーション上でプレス成形のトライ&エラーを1週間かけて30回ほど行い、望ましい加工方法と、必要となる金型の形状を導き出しました。そのデータに従って実際に金型を作り、リアルにテスト加工をしてみると、驚くことに一発でうまくいきました。まさにデジタルとリアルが一致した瞬間でした。リアルに行えば3カ月はかかってしまう試行錯誤の工程を、わずか1週間に短縮することができたんです。それも、これまでやったことのない成形方法だったので、革新的と言ってもいいくらいの成果でした。
Tさん
それ以外に、リアルでの検討では「不可能」と言われていたプレス加工も実現しましたね。
Kさん
そう。ワッシャーと呼ばれる、真ん中がくり抜かれたごく薄い円盤のような板状のものを、プレスによって縦に起こすようなかたちでリング状に成形するという加工です。これはもう現場で「不可能」と判断されて検討すらされていなかったのですが、リアルデジタルツインの技術を使えばできるんじゃないかと考え、トライしてみたんです。すると、条件を変えながら何十回とシミュレーションするうちに、うまくいく条件が見つかり、実際にリアルでその通りに加工してみたら、これも一発でうまくいきました。
Hさん
あの時は現場でも「すごい!」という声が上がりましたね。
Kさん
うれしかったです。それからもいろいろと条件を入力して解析するなかで、加工が成立する条件の範囲を計算式で表現できるところまで持っていくことができました。リアルデジタルツインを使う前は「不可能」と言われていた加工に、計算式が存在していると気づくことができたのは、大きな一歩だと感じています。
Tさん
現場とのコミュニケーションのとり方も変わったのではないですか?
Kさん
その通りです。これまでは現場の担当者の経験値が頼みの綱だったのですが、リアルデジタルツインを用いることで、そこに可視化されたもう一つの視点が加わりました。現場で起きている事象を裏づけるデータが登場したことにより、現場の担当者と私たち開発者が「なるほど、こうなっているのか」「想像と違った」などと言い合いながら、課題に対して一緒になって解決策を見つけていくことができるようになりました。
Hさん
それは私も感じていて、リアルデジタルツインが「使える」という認識は、この数年で現場を含めてすっかり根づいたように思います。当工場で解析を行っているのはだいたい若手社員なんですが、彼らが解析結果を手に、現場のベテラン社員に対して「こうしたほうがいいのでは」と相談しているシーンを、しばしば目にするようになりました。今では現場で何か加工に失敗すると、現場の担当者が「これ、ちゃんと解析した?」と確認するほどで、より良いものづくりに向けて、さまざまな立場のさまざまな知見を持つメンバーが、実に良いかたちで協働できる環境ができてきたと感じています。
Tさん
2人の話を聞いていて、NSKの目指すリアルデジタルツインがまさに実践されていると思いました。リアルデジタルツインの神髄は、エンジニアの創造性の解放にあります。シミュレーションや解析はあくまでも手段であって、真の目的は課題解決です。人間の目では覗けないところをデジタルで補うことにより、事象を正確に解明し、それを出発点として、エンジニア自身が既成概念を打ち破る発想によってソリューションを導き出す。フォーカスすべきは、あくまでも「人」なんです。
SESSION 04

見えてきたリアルデジタルツインの大きな可能性

今後の展望について教えてください。

Hさん
今、工場の解析設備がかなり充実してきているのですが、それを使って、これまで試したことのない新しい形状の加工にチャレンジしながら、リアルデジタルツインの活用範囲を広げていっています。まずはそこで成果を出したいですね。
Kさん
同感です。また、それに加えて私は、品質向上におけるリアルデジタルツインの活用にも着目しています。現場の加工では、わずかな条件の違いで材料にシワやゆがみが発生することがありますが、実はそうした不具合事象も解析上で表現できることがわかってきました。これを突き詰めていけば、現場でしか修正しようがないと思っていた微小な「誤差」を、解析上で解決することができるのではないかと、検証を進めているところです。
Hさん
「できないだろう」と思っていたことにチャレンジする勇気と道具を与えてくれるのがリアルデジタルツインだと思います。「やったことがないからできない」のではなく、「やったことはないけれど、解析だけはやってみよう」とトライし、解析がうまくいったら「一度作ってみよう」とリアルに移行していく。リアルデジタルツインは、そうしたチャレンジのハードルを低くし、背中を押してくれる存在ではないでしょうか。
Tさん
2人のすごいところは、単にリアルデジタルツインを実践するだけでなく、自分たちで解析マニュアルを作成し、今では自分たちがメンターとなって高崎・榛名地区内で若手の指導にあたっているということ。次のリアルデジタルツインの担い手を育成しているんです。それは私にとって非常にうれしいことで、先ほど「人」にフォーカスしたいと言いましたが、リアルデジタルツインを実践できる人をもっともっと増やしていきたいと考えています。NSKの技術者は全世界に数千人以上います。その大多数の人がリアルデジタルツインを実践できるようになれば、加速度的に進化するお客さまのスピードにしっかり寄り添える、より強いNSKになれるに違いないと思っています。
SESSION 05

若者の挑戦を尊ぶ風土があってこそ

リアルデジタルツインを推進するNSKという会社の魅力とは?

Hさん
リアルデジタルツインを用いれば、自分のアイデアを目に見えるかたちで提案できます。実際にモノを試作するとお金がかかりますが、解析するだけなら費用はわずかなものです。若い技術者でも、操作さえ覚えればすぐに試行錯誤が可能です。実際、当工場でも若手がそうして業務に活用しています。キャリアを積んで技術的な知見を蓄えないと提案できないなどということはなく、入社してすぐに自分の発想やアイデアをかたちにして活躍できる環境が、ここにはあります。仕事をしていても、きっと楽しいと思いますよ。
Kさん
メーカーでは、現場、解析、金型設計、それぞれ専門の担当者がいて、基本的にはそればかりしているというイメージがありますが、私は今回、リアルデジタルツインの実践に携わることによって、従来担当していた現場と金型設計に加えて、解析も本格的に手がけることができました。これで、自分のなかの足りないピースがすべて埋まったように感じます。いわば、製品開発を行ううえで、それらすべてに携わることができているわけですが、これは大きな魅力であり、モチベーションアップにつながります。NSKなら、希望すればこうしていろいろチャレンジをさせてくれますし、やる気のある人に対しては全面的にバックアップしてくれる会社だと感じています。
Tさん
2人の言う通りで、NSKは「新しいことがやりたい」と一所懸命に声を上げている人に対して、ちゃんと手を差し伸べてくれる人がいる会社です。リアルデジタルツインも、そういう土壌があってかたちになった取り組みだと思っています。今、高崎・榛名地区に続いて、他のエリアでも次々とリアルデジタルツインの成功事例が出てきています。これから入社する若い技術者の皆さんにも、この環境を有効に活用して、ぜひ既成概念を打ち破る活躍をしていただきたいと期待しています。

[ リアルデジタルツインの
次なる担い手たち ]

Tさん

2019年入社
自動車事業本部
パワートレイン本部
高崎・榛名地区統括
開発センター
生産技術部 成型技術グループ

リアルデジタルツインを用いて
問題の本質解明に挑戦。

生産技術部で、プレス加工における金型設計や設計の自動化、解析を利用した新規製法の開発などに携わっています。担当製品に、慢性的に発生している不良品事象があったのですが、それをリアルデジタルツインによってどのような成形過程を経たものなのかを解明することによって、長年不可能だった対策検討に着手できるようになりました。これからも、カンやコツに依存するだけでなく、リアルデジタルツインを用いて問題の本質解明やプロセスの磨き込みをすることによって、今後さらにスピードが求められる製品開発に新しいアプローチで臨みたいと思っています。

Kさん

2021年入社
自動車事業本部
パワートレイン本部
高崎・榛名地区統括
開発センター
生産技術部 先行開発グループ

物性データによる解析を進め、
新規材料の導入に挑戦。

先行開発担当として、主にプレス加工に用いる新規材料の検討を行っています。新たに導入を検討している材料の物性データをもとに解析を進め、リアルな製品と解析上との形状を照らし合わせるなどして、新規材料の加工性を調べています。今後は、その材料で加工した際にキズやシワといった不具合が発生しないかどうかを、解析によって検証することによって試作工程を削り、開発期間の短縮と開発コストの低減を実現したいと考えています。まだまだ手探り状態ですが、「品質の良いモノを早く作り出す」を、リアルデジタルツインによって叶えたいと思います。